タクシードライバーを100回以上見てるんだが俺って異常か？

「タクシードライバー」は大ヒットになった。初日の劇場に駆けつけたシュレイダーは長蛇の列 を見て怯えた。サープラス服を着て、青白い顔で下ばかり見ている若者ばかりだったからだ。スコセッシは 「この映画はトラヴィスのような人物を手遅れになるほど無視する社会への警告である」とコメントしたが、 観に来たのはトラヴィスのような男ばかりだったのだ。

ジョン・ヒンクリーもその一人だ。当時二十歳の彼はジョン・レノンに憧れ、歌手になるためにハリウッ ドに出てきたが、誰にも相手にされず、十五日間『タクシードライバー」の劇場に通った。そしてジョデ ィ・フォスターの虜になった。

一九八一年三月三十日、ワシントンのホテルを出たレーガン大統領にヒンクリーは炸裂弾六発を発射した。 レーガン大統領は軽傷で済んだが、巻き添えとなったブレディ報道官は下半身不随となった。その銃撃の瞬 間は全世界のテレビで放送された。ヒンクリーは「ジョディのために撃ったんだ!」と主張、裁判では「タ クシードライバー」が上映され、メディアが犯罪に及ぼす影響が論議された。

ベトナム戦争とは無関係にトラヴィスのような男は存在する。一九三八年、岡山県で起こった津山三十人 頃し事件はその典型だ。過剰な自意識ゆえに人を遠ざけた男が「今に見ておれ」と大量虐頃を起こした。は るか江戸時代には、遊女に冷たくされた孤独な男が遊郭で人を斬りまくった「吉原百人斬り」事件がある。 最近では、バスをジャックしたネット中毒の少年、歌舞伎町の裏ビデオ屋爆破を企んだ引きこもり少年がト ラヴィスの仲間だろう。

「『タクシードライバー」のテーマは孤独だ」とシュレイダーは言う。
「でも、その孤独は彼自身のせいなんだ」

ドストエフスキーは「地下生活者の手記」で自意識ゆえに自分を特別な人間だと思い込んで引きこもるイ ンテリを描いたが、それはインテリだけの病ではない。
スコセッシが中国の大学で映画の講義をしたとき、一人の生徒が「僕は孤独で気が狂いそうです。どうし たらいいんでしょうか?」と相談したという。「君の孤独感を表現してみなさい」とアドバイスされた生徒 は自分のことを映画にし、評価を得て、再びスコセッシに邂逅した。
「表現はしたけど、寂しさは消えません」

スコセッシは哀しげにこう答えたという。
「･･････・実は、僕だって、そうなんだよ」